キャッシング用語

いつか満天の星空の下で

     copyright ©2003 -2017いつか満天の星空の下で all rights reserved

林檎の風

それが永遠の眠りになるとは
誰もが思わなかった
唐突に林檎が食べたいと
言い出した彼女には
消灯の時刻が訪れていた

眠りに就く前に
決まって何かをねだるのは
もしかしたら
明日は目覚めないかもしれないという
そんな不安があったのかもしれない

その前は
アイスクリームだった
だから病院の売店で
アイスクリームを買って行ったのだ

いつものことだから
いつものように
明日買ってくるねと
知らずに振った最後の手

微笑みを浮かべて
白い手を振り返しながら
「おやすみ」と呟いた彼女は
あれから夢の中で
林檎を食べていたのだろうか

ごめんね
剥いてあげられなくて

供えられた林檎は
気休めでしかないようで
戻らない時間は
まるで
胸の中にぽっかりと開いた
その形の穴のようだ

風が通り抜けてゆく

今日も林檎の香りを乗せて
わたしの心を
甘酸っぱくさせながら

静かに通り抜けてゆく







別窓 | 硝子の林檎 | ∧top | under∨
| いつか満天の星空の下で |